
僕がただ漠然と竹之内彬裕氏の仕事風景を撮りだしたのは2009年1月のことだから、もう13年あまり撮り続けてきたことになる。カメラを向け、多くを語り合い、飯を食い、酒を飲む。そんな日々を重ねきた。
2019年1月からは「竟の仕事」という明確なテーマを設けた。人生最晩年の仕事の風景をということだ。しかし、ますます旺盛にパワフルになっていく氏の創作意欲に、追い立てられるように写真を撮らされている僕がいた。今はその〈力〉が「匣」の中に込められている。土の「匣」だ。

僕はそのいくつかの製作過程に立ち会ってきた。木箱のように板を貼り合わせるのではない。紙箱のように型で切り抜き、組み立てるのでもない。土であってもタタラ(土の板)を貼り合わせるのでもない。土でつくった紐を積んで、手回し轆轤を使い匣の形をつくり上げていく。あたかもその形が、予め空気の中に存在していたかのように、自然に、当たり前のようにつくり上げていくのだ。
「この中には何も入っていないように見えるでしょう。そう、空っぽの匣をつくっているのですよ」
氏はそう言ってにっこり笑った。だが、僕は思った。それは空っぽではないと。

氏は自らの体内に充満したものづくりへの思いを、指先から空気の中に込めて匣という形をつくり上げているのだと。そうでもしないと充満した創作意欲を抑制することができなくなり、いつ何時暴れだすかわからないのが不安なのだと。それほど力は漲り、有り余っているのだ。
蓋を開けた時、そこにはいったいどんな世界がひろがるのか、楽しみでならない。びっくり箱のように、胡座をかいた氏が飛び出してくるかもしれないななどと想像しながら。

竹之内彬裕略歴
1937鹿児島市生まれ
1967鹿児島市立工芸研究所伝習生修了
1969鹿児島県姶良市に独立開窯
1988日本工芸会正会員認定 以後連続入選
受賞歴
1988日本伝統工芸展 日本工芸会長賞
1986西部工芸展 朝日新聞社 金賞
1987西部工芸展 朝日新聞社 銀賞
2004西日本陶芸展 奨励賞
2007西日本陶芸展 奨励賞
以後受賞歴多数
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